| 『ブレード・ランナー』のエンディングが『I.K.U.』のオープニングにリンクする。愛はあっても決してSEXすることのなかったそれとは違い、I.K.U.ランナーとレイコはあのエンディングのエレベーターから激しいSEXをするのだった。ゲノム・コーポレーションはこれから売り出そうとしているI.K.U.システムの最終開発段階に入っていた。そのシステムとはI.K.U.サーバーにアクセスすることにより、I.K.U.データを直接脳で感じ性器の接触の無しにオーガズムに達することができるという画期的なIT技術によるものだった。そして、そのI.K.U.システムを完成させるにはあらゆる人間のオーガズム・データが必要だったのである。そこで、ゲノム・コーポレーションは、相手の欲望によって変身する7人のセクシー・レプリカント“レイコ”をニュー・トーキョーに放ったのだった。 『I.K.U.』は7人のレイコによるオーガズム・ハンティングのセクシー・ロールプレイング・ムービーである。 <インターネット世代に贈るネットサーフィン・ムービー> ゲノム・コーポレーションのレプリカント、レイコ。ニュー・トーキョーに派遣された彼女たちは、I.K.U.システムのデータ収集のため、次から次へと様々なパターンで男女の区別なく交わってゆく。このプロセスを、映画『I.K.U.』は、シーンからシーンへワープして、自由自在に連写してゆく。ウェブサイトのアドレスを入力するだけで、世界中いつでもどこでも好きな場所へ飛ぶことができるインターネットのネットサーフィンと同じ感覚だ。今までの映画は、約100年前に発明されて以来、演劇に近い歴史を辿ってきた小説形式の物語を、映画の登場人物たちにより表していく。しかし、インターネットの登場によって、20世紀末から世界中のあらゆるジャンルで大きな変革が起き始めている。まずコンピューターが通信手段を獲得し、やがて同じような機能は電話やテレビへと広がってゆく。今や若者から老人までもがこの新しい神器の習得に夢中になっている。そんな時流にあって、映画がインターネットから何らかの影響を受けてもいいのではないだろうか。まさに『I.K.U.』こそ、インターネット世代に向けて製作された映画だ。 <個人の快楽を企業がコントロールする近未来> 「それは愛では無く、セックスだった」という『I.K.U.』では執拗にセックスシーンが描かれている。なぜならば、『I.K.U.』はゲノム・コーポレーションが開発するI.K.U.チップのプロモーション映画に他ならないからだ。(この入れ子構造は公式HP www.i-k-u.comを御覧下さい)I.K.U.チップをネット・フォンにセッテイングしてI.K.U・サーバーにコネクトする。それはまるで現在インターネット上で展開されるネットアイドルや、ネットナンパの行きつく末でもあるかのようだ。セックスの快楽だけを追求し、そのオーガズム・データを気軽に提供する近未来セックス産業。ヴァーチャル・エクスタシーの虜になってしまった人間が、果たしてリアル・セックスをエンジョイすることができるのだろうか。性器の摩擦による快楽から解き放たれた人類は新しい快楽から何を生み出すのか。映画『I.K.U.』は個人の快楽を企業がコントロールする時代を描いており、人間自身の境界が曖昧になりヒト・ゲノム、クローン人間、人間型ロボットといった言葉が頻繁に囁かれている現在に警告する預言的近未来SFともいえる。 <デジタル・アートで表現するプラスティック感覚のジェンダー> 劇中のシーンは、裸体とセックスのオンパレード。それにもかかわらず、全然生々しくない。恍惚とした独特の空気だけが漂い、美しく、そしてトリッキーである。画面のひとつひとつがまるでデジタル・アートの絵画のようであり、コミックのようでもある。 CGと音楽が交錯するプラスティック感覚のエクスタシー。それはインターネットで得ることが出来るヴァーチャル・エクスタシーに似ている。インターネットとデジタルを駆使したアートでグッゲンハイムを初めとした世界中の美術館から高く評価されているサイバー・ワールドのクイーンであるシューリー・チェンのアート感覚が最大限に表現されている。 <“プッシー・ポイント・オブ・ヴュー”女性感覚のポルノ映画> 映画『I.K.U.』は、サンダンス映画祭を始め世界の20以上の国際映画祭において話題を独占した。どの映画祭においても、女性器にペニスが挿入される様を“プッシー・ポイント・オブ・ヴュー”と名付けられ、特に女性から「もっとペニスをみたかったわ」と支持された。監督が女性であり、映画の視点は7人のレプリカント、レイコに置かれている。異次元的でサイバーティックに表現された世界は、何かに包み込まれていてどこか優しい、子宮の世界のような感じがする。男性に視点を置いて、一方通行の攻撃として描かれた通常のポルノ映画とは決定的に違う新感覚ポルノ映画の誕生だ。 <モザイク状のデータがI.K.U.データ> レイコがオーガズム・データを採集する時にエンコードするI.K.U.データはモザイク状の視覚データと音声からなっている。性表現に関してナンセンスな規制を続ける日本。アダルトビデオではブロック状のモザイクにより性器を隠す事が異常に発達してきた。日本人男性はモザイクの奥に見える性器を想像して快楽を得てきたのである。いわばモザイクに欲情する世界でも稀な民族と進化してきたわけだ。近未来の東京を舞台にした『I.K.U.』では、そんな日本人の視覚による快楽をパロディ化するためにオーガズム・データはモザイクとなっているのである。 |